歴史に残る名スピーチ

NFLと関係ありませんが、愛するアメリカンスポーツ業界というくくりであえて記事にします。

アメリカンプロレス団体WWEにて長年、活躍を続けてきた”エッジ”が突如、引退を表明しました。

ネット上では既に周知の事実だったのですが、私はあえて日本放送までその詳細を封印してきました。
そして日本放送にて引退表明を見たのですが、その事情と彼のスピーチが涙なくしては見れないものでしたので、ログとしてこのブログに残しておくことにしました。

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プロレス業界のリアル

WWEを知らないNFLファンに説明すると、WWEでは既に「これはショーである」と公言しています。昔のプロレスファンに「脚本がある」とか言ったら、怒っていましたがここでは当然です。

100%の全力で戦力と戦略をぶつけ合うNFLが好きな私が、なぜショー(ギミック)と公言しているWWEも好きなのかというと、ショーだからこそリアルより厳しい現実があり、ウソと真実の境目が分からない混沌とした世界に魅力があるからです。

ショーだと言っても、100Kg以上ある相手を持ち上げて投げたり、トップロープ(コーナーポストの最上段)から飛んで頭から相手に突っ込んだりしているのは、CGでもなく紛れも無い真実。実際にやったら全て大ケガです。それを非日常と感じさせないぐらい徹底してトレーニングをしています。

あと「兄弟コンビ」といいつつ実は兄弟じゃなかったり、本当の兄弟だったり、「お前はクビだ!」と言われてウソだと思っていたら本当にクビになっていたり。
特にWWEの裏番組をぶつけてきたライバル団体の”WCW”との抗争の終盤は、本当にどこからどこまでがショーかリアルか分からなくなり、奇妙な気分になりました。

 

NFLなら負傷したらフィールドから出ますが、WWEでは試合途中に負傷しても、観客にはそれを悟られず試合を続行しているケースがあります。
たとえば看板スターのHHH(トリプルエイチ)は、試合開始まもなくのニードロップで、呼吸器系をやられて呼吸困難の状態になりながらも、それを隠して1時間近く試合を行いました。
試合を見ている最中は負傷しているなど全然分からなかったので、試合後に緊急入院をした時は驚きました。

他に週2回のTV生放送と全米各地で行うハウスショーと呼ばれる試合をこなし、さらに世界を巡業。慰問のためにイラクで試合をやって3日後にはアメリカで生放送という過酷なスケジュールで、飛行機の中ですごす時間は年に1ヶ月以上。

筋肉増強剤を使いすぎて薬漬けになったレスラーもいれば、試合中の負傷で半身不随になる者もいます。加えて、リング上で演じるキャラクターで歓声を受ける事に中毒となり、引退後は自分を見失い酒びたりになるなど、華やかな舞台の裏は地獄です。

キャラクターを作って振る舞い、ハデに痛めつけあう事を見せる。
「なぜこのような事をするのか?」という疑問を追ったドキュメンタリー「ビヨンド・ザ・マット」という映画があり、これを見ればショーの裏のリアルがよく分かります。
(私は映画館で見て、さらにDVDを持ってます。そのぐらい名作)

ファンに近い位置のWWEレスラー達

各レスラーにキャラクターがあり、週2回のメインの番組で抗争を演じます。何気なく見てるつもりが、いつのまにか彼らが心に住みつきます。

”エディ・ゲレロ”というレスラーが数年前に急死しました。ラテン系の明るいキャラで、そしてファンを楽しませるためにレスリングに全力を尽くしていました。
彼が死んだニュースは当時、日本のYahoo Japanのトップにも表示されました。それは、あまりにも突然の事でウソだと思わざるえませんでした。

だが、彼が死んだ事が事実だと知ると、マジで涙が出て自分自身でも驚きました。
だって知り合いでも無い、見ず知らずの外人ですよ。
その夜は遅くまで、酒を飲みながら彼の試合のDVDを見てました。

言葉だけや格好だけの「追悼」ではなく、自然にそんな行動に出た自分に驚きましたよ。もう彼のレスリングや笑顔が見れないと思うと涙が止まらない。
自分にそんな感情があったという、何か新たな発見というか、言葉に表せない気持ちでした。

NFLではテレビ観戦なのにマジで手足が震えるほどのギリギリの緊迫感をもらいますが、WWEでは虚構とリアルの間の不思議な世界と、ファンに命を捧げるレスラー達に感動をもらいます。

エッジ引退の理由

このWWEで王座を獲得している人気スターの”エッジ”が突如、引退を発表した理由。それは簡潔に言うとドクターストップです。
ファンの前で自ら引退を発表する彼の顔からは、「自分は続けたいのに止む得ない」悔しさが伝わります。

先ほど説明したショーの裏側を念頭に置いて読むと理解できる、引退スピーチの日本語全文を掲載します。
ファンの前かつ生放送でのスピーチにも関わらず、事情や思い出、感謝を分かりやすく簡潔にまとめた素晴らしい内容です。

 

エッジ、リングイン。

「俺の説明は分かりにくいと思うが、ガマンして聞いてくれ」
「WWEの試合は安全だと言われている。過激なプレーには裏があると思うんだろうな。」
「だがリングで闘ったことのあるものなら、それはデマだと知っている。」
「実際のところ約8年前、俺も試合で首の骨を折った。」
「その時はノドを切って、骨を金属で固定するという大手術を受けた。」
「おかげでレスラー生命は少しばかり延びたよ。」
「だがこのところ、体に強い痛みを感じるようになったんだ。」
「そして、腕の感覚がマヒしてきた」
「だから、医者の了承を得た上でレッスルマニアの試合へ臨んだ。」
「だが、レッスルマニア後、団体から精密検査を求められた。」
「その結果、下されたのは、引退宣告だった」

困惑するファンの顔が映し出される

「俺自身は不本意だが、それしか道はないそうだ。」
「逆らえば車イス生活になっちまう」

涙目で次の言葉に詰まるエッジ。ファンから拍手。

「ヤバイ、困ったな。」
「まぁ、なんと言うか・・・、みんなありがとうな」

会場のファンから「ありがとうエッジ」コール

「この1週間、俺の中でいろんな感情が渦巻いた。」
「自分の不幸を嘆きもした」
「だがクリスチャン(レスラー名)と話をして覚悟が決まった。」
「念のため伝えておくが俺たちは27年来の親友だ」
「引退宣告を受けた後、俺は自分の憤りを感じた」
「俺を頼ってくれる連中を裏切る結果となったからな、みんなを悲しませちまう」

「それに何よりも、引退の時期ぐらい自分で決めたかった」
「だがクリスチャンの言葉で幕を引く決心がついた」

「今でも みんなと同じようにWWEの大ファンだ」
「ガキのころクリスチャンとWWEの試合を観戦した。LODやデモリッションのな」
「彼らの試合に大興奮したよ。レッスルマニアのホーガンvsウォーリアー戦を見たとき、俺もレッスルマニアに出ると誓った。」
「そして時は過ぎ、俺は2008年のレッスルマニアでメインを張った」
「まさか実現するとは夢にも思わなかった。」
「WWEで活躍する自分を11歳の俺が想像できたか?できるわけがない」

「偶然にも俺の引退試合はレッスルマニアのメインである世界王座戦だ」(※最後の試合でなく、1試合目だった)
「そして王者として引退。こんな素晴らしい幕引きはないぜ」

「俺はWWEに入団した時、まだ23歳だった。19年間のキャリアのうち、14年間をここで過ごした。」
「WWEで初めて闘ったのは96年5月だった。」「だが、当時を振り返ると俺もガキだったな。」
「みんなの前で随分と失態も犯した。だが、それらを教訓に一人前になれた」

「俺はもともと、ダサい格好で物静かに街を歩いているような男だ」
「それが入団後、吸血鬼キャラを演じた。そしてクリスチャンとマヌケ面でポーズをキメていた。」「その後史上随一の嫌われ者になり、番組内で海に投げられもした」
「リタとの公開セックスも良かったぜ」
「そんな俺のレスラー人生を団体の奴らに認めてもらえたら嬉しい。みんなも認めてくれるよな」

会場から拍手

「俺はいつでも、リングに上がれば、みんなのために全力を尽くした。みんなも全力でこたえてくれた」
「だけど、寂しくなるぜ。入場する時のみんなの歓声も聞けなくなるな」
「アドレナリンがわき上がり、最高の気分を味わえた。」

「だが明日から衣装は必要ない。甘い物もたらふく食える。」

「もしJR(団体の実況からスカウトまで行う重役)と出会ったWWE入団時に戻れたら・・・」
「飛行機で巡業する生活を喜んで繰り返すだろう。不眠、ケガ、手術。歯が抜けることも構わねぇ。」
「戻れるなら・・すぐに戻るぜ」

「今までありがとな」

ファンが総立ちになり握手。
やりきれない表情でエントランスゲートに迎い、天に向かって指を指して退場。