栄光なき天才
久々のコーナー「NFLスーパースター列伝」。
現地時間2022年6月2日に元ジェッツのQBかつ、長年にわたり9つものチームを渡り歩いた”ライアン・フィッツパトリック”が引退したので、過去に1回しか書いていないコーナーを復活いたします。
ブリーズが引退しようが、リバースやロスリスバーガーが引退しようが書かなかったのに「なんでやねん」と思うかもしれませんが、それは個人の好みなので仕方なしです。
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ライアン・フィッツパトリック とは?
2005年シーズン~ ラムズ・ベンガルズ(フィッツパトリックNFL入り編)
詳しい説明はWikipediaを見てもらうとして、ここでは闇と光をクローズアップしてお伝えします。
本名はライアン・ジョセフ・フィッツパトリック(Ryan Joseph Fitzpatrick)。
出身大学はなんと、誰もが知っている天才のみが入れる超名門
ハーバード大学
しかし、アメフトが強い大学ではありません。
そこで同大学初の1000ydラッシングを記録したQBであり、2005年ドラフトにて7巡目(全体250位)でセントルイス・ラムズが獲得します。
ドラ7とはいえ、ハーバード大卒の頭脳は本物。
QBの知能を測るワンダリックテストで出した48点(50点満点)は、当時の過去最高得点でした。
ちなみに、この吹き出しに関しては、元ネタが分かる人にだけ楽しんでもらえればいいのだよ。
ハーバード大出身という事だけが話題になるも、全く日の目を見ずにラムズ、ベンガルズと渡り歩いて、転機が訪れたのが2009年のビルズ入団でした。
2009年シーズン~ ビルズ(フィッツパトリック転機編)
当時、ビルズの先発QB”トレント・エドワーズ”の負傷をうけて8試合出場し、成績を残して2011年に開幕先発QBに昇格しました。
ジェッツと同地区なので、私はこの時期からフィッツパトリックのプレーを見ていましたが、スクランブルではスライディングをせず、むしろ勇猛果敢に頭から相手D#に体当たりを喰らわす勇ましさで、褒められないプレーながらも人を惹きつけるものがありました。
フィッツパトリックはWeek08の時点で5勝2敗(bye=Week7)という好成績で、ビルズに久しく登場しなかったフランチャイズQBの臭いを漂わせ、シーズン途中で6年59Mという当時では大型の契約を結びました。
しかし、Week09で我らがJETSとの対戦が彼のキャリアを狂わせました。
当時ジェッツのHC”レックス・ライアン”が得意とした、ブレイディやペイトン・マニングをも惑わせる予測不能のD#にフィッツパトリックの優秀な頭脳も狂わされて敗北。
それ以降、フィッツパトリックは人が変わったようにパフォーマンスが落ちて、ビルズは1勝しかできず泥沼の7連敗で期待のシーズンを6勝で終えました。
フィッツパトリックは2012年シーズンも6勝で、ビルズからお払い箱となりました。
2013年タイタンズ、2014年テキサンズ(割愛編)
2013年はタイタンズに移籍。QB”ジェイク・ロッカー”の負傷のため、9試合を先発するも3勝しかできず。
2014年はテキサンズに初めての先発QB待遇で移籍するもパフォーマンス不振のため、途中先発を降板となります。
途中復帰してフランチャイズ記録の6TDを決める活躍をするものの、結果は12戦出場して6勝とすっかり勝てないQBになりました。
2015年シーズン~ ジェッツ (フィッツマジックと先発殺し誕生編)
そして2015年シーズンに我らがジェッツが、当時の先発QB”ジーノ・スミス”のバックアップしてフィッツパトリックと契約したのです。
ここでジェッツ史に残る大事件が発生。
開幕前に先発QB”ジーノ・スミス”がロッカールームで他の選手とのトラブルとなり、殴られてアゴを骨折し長期離脱となったのです。
これを受けてQB”ライアン・フィッツパトリック”が開幕先発QBに昇格しました。
序盤は好調でしたがシーズン中盤から負けこみ、さらに左指の負傷もありWeek10で勝率は5割。このままシーズンが終わるかと思ったところでフィッツパトリックは動きました。
なんと、トレードマークであるヒゲを剃ったのです!
!∑(゜ Д゜)
この髭剃りにより、変な力を得たフィッツパトリックはブレイディ率いるペイトリオッツをも倒す勢いで破竹の5連勝。
(ペイトリオッツ戦に関しては事件がありましたが)
この時の連勝から、ミラクルを起こす男と認識され代名詞である
フィッツマジック(FitzMagic)
という言葉が囁かれ始めました。
ジェッツは最終戦でビルズに勝利すれば無条件で5年ぶりのプレーオフ出場、かつ、その最終戦の相手は不振のビルズが相手であり、ジェッツファンは皆「プレーオフ出場は当然」だと思い込んでいました。
しかし!当時のビルズのHCは元ジェッツのHC”レックス・ライアン”。消化試合にも関わらず古巣相手に容赦が無いどころか、諸葛亮孔明ばりの知略を繰り出して、ジェッツはまさかの敗北によってプレーオフ出場を逃したのでした。
(TωT)
しかしながら10勝6敗でフィニッシュし、かつ、球団の1シーズンTD記録を塗り替えたフィッツパトリックの実力を認めて、キャンプ開始目前の契約交渉期間ギリギリに再契約に成功し、2016年シーズンもフィッツパトリックに先発を託したのでした。
しかしフィッツパトリックのパフォーマンスは不安定で、Week03チーフス戦では6INT(球団記録タイ)、計8ターンオーバーの大乱調で敗北します。
その後、フィッツパトリックは降格と先発復帰を繰り返し、ジェッツの2016年シーズンは5勝11敗の散々な結果で終わりました。
このシーズン途中で、ようやく世間がフィッツパトリックの奇妙な法則に気付きます。
フィッツパトリックがNFLデビューからこれまでの待遇は、出番があるかどうか分からないバックアップQBであるのに関わらず、渡り歩いたチームでは全て先発QBとして出場機会を得ているのです。
詳しくは以下の記事を参照
わがブログではこの怪奇現象を「先発殺し」と勝手に名付けました。
2017年シーズン~ バッカニアーズ(大爆発&名画誕生編)
2017年シーズンはバッカニアーズに移籍。QB”ジェイミー・ウィンストン”のバックアップQBとして雇われたにも関わらず、ウィンストンの負傷によりやっぱり先発に昇格。
続く2018年シーズンはウィンストンがUberドライバーわいせつ容疑で開幕3試合欠場となったために、開幕先発に昇格しました。
開幕戦から超人的なパフォーマンスを見せて3試合連続でパス400yd以上を獲得するNFL史上初の大活躍をし、2週連続でNFCのO#週間最優秀選手に選ばれたことで、調子に乗って記者会見で披露したファッションから以下の名画像が生まれました。
しかし、好調が長続きしないのがフィッツパトリックの特徴。成績は急降下し、ウィンストンと途中交代させられるものの、また先発へ復帰。
チームは5勝11敗の地区最下位の成績で終わり、バッカニアーズを去りました。
2019年シーズン~ ドルフィンズ(ハートブレイク編)
実はフィッツパトリック、後の話ではジェッツ時代で精神的に病んでしまったそうで、その時に引退も考えたそうです。
しかし、求められるうちは現役を続ける姿勢だったようで、バッカニアーズの次は”ライアン・タネヒル”を見限ったドルフィンズからお誘いを受けて契約。
その後にドルフィンズは2018年ドラフト1巡(全体10位)でカーディナルスが獲得するものの1年で捨てたQB”ジョシュ・ローゼン”と契約しますが、ドルフィンズはフィッツパトリックを開幕先発に据えます。
しかし、開幕戦のレイブンズ戦はフィッツパトリックの大乱調により、ドルフィンズが前半42失点の結果59-10の超大敗を喫します。
次のペイトリオッツ戦もフィッツパトリックは3INTで試合をぶち壊し、第4Qでローゼンに交代するも43-0という大差の完封負け、かつ、2週連続で40点以上を失点する地獄に落ちました。
当然、Week03から先発はローゼンになりますが、ローゼンもダメダメでWeek06からフィッツパトリックは先発に復帰。そこから2連敗してドルフィンズは開幕7連敗を喫するも、Week09の古巣ジェッツ戦で勝利しました。
そこから調子を取り戻すも、ドルフィンズの2019年シーズンは5勝11敗で終了。
ドルフィンズはチームの立て直しを図り2020年ドラフトにて1巡目でQB”トゥア・タゴバイロア”を獲得します。
しかし、タゴバイロアは昨年の11月に負傷しているため、大事を取る事と教育のために開幕先発をフィッツパトリックに指名します。
この頃からフィッツパトリックに心境の変化が生まれたようで、これまであまり見られなかったサイドラインでタゴバイロアと話をしているシーンが目立ち、「後輩の教育」という部門に目覚めたようでした。タゴバイロアと馬があったのでしょう。
そして、良くも悪くも安定しないパフォーマンスは健在で、Week05でガロポロ率いる49ers相手に大爆発して48-13の大勝利。レーティングは154.5というほぼ満点近い数字をたたき出しました。
次のジェッツ戦でも勝利し、当分フィッツパトリックは先発の座を明け渡さないと思われた矢先事件が起こります。
なんとドルフィンズはWeek08を前に好調だったフィッツパトリックを降格させ、先発QBをタゴバイロアに指名!
この時、フィッツパトリックは大変ショックを受けて以下のようなコメントを残します。
「私は一日中、心に痛みを感じた。心が張り裂けるようだ。私はスターターとしてプレーし、色々な理由を付けられてベンチに下げられてきた。
しかし、今回の理由はこれまでとは異なったものだ。私はこのチームに全身全霊を注ぎ、全てを賭けてきた。このチームを率いるのは自分だと思っていた」
しかし、タゴバイロアのパフォーマンスは不安定。
加えて、相変わらずの「先発殺し」は健在で、Week12のジェッツ戦を前にタゴバイロアが練習で指を負傷し、再びフィッツパトリックが先発に返り咲きます。
そこから最終週まで勝利しまくり、たった1敗という好成績でドルフィンズを盛り上げました。
特に伝説となったWeek16のレイダース戦。
残り時間19秒で2点差のビハインド、自陣25ydという絶体絶命的な状況から投じたパスがコレです!
FitzMAGIC? #FinsUp
: #MIAvsLV on @NFLNetwork
: NFL app // Yahoo Sports app: https://t.co/Gd3pMdskDl pic.twitter.com/qVzZt5R506— NFL (@NFL) December 27, 2020
がっつりフェイスマスクを掴まれながらも、敵陣深くへロングパスを通すのです。
そこに反則による15ydが加えられて敵陣26ydに進み、最後はFGが決まり奇跡の大逆転をやってのけたのです。
これぞ、フィッツマジック!!
しかし、長持ちしないから「魔法」と呼ばれるゆえん。
プレーオフのかかった最終週を前にフィッツパトリックはコロナで欠場。タゴバイロアが先発するも敗北してプレーオフを逃しました。
ぎゃっふん
(ノДT)
2021年シーズン ワシントン・フットボールチーム(あっけない幕切れ編)
最後の9チーム目はワシントン・フットボールチーム(旧:レッドスキンズ、現;コマンダーズ)。
開幕前からSNSでワシントンのジャージ姿での にこやかな表情を見せて、今シーズンもフィッツパトリック劇場が見れるとファンは思っていました。
昨シーズンのプレーオフで活躍したQB”テイラー・ハイニキー”と競って、やっぱり開幕先発QBに指名されるもWeek01のチャージャーズ戦で股関節脱臼の負傷を負い、シーズン半分を欠場すると発表されました。
一応、「渡り歩いたチームで先発QB出場」というファンが望むノルマは達成したものの、11月に復帰不能と判断されシーズンエンドしました。
そして2022年シーズン、どこからも契約の話はなく現地6月2日に引退を発表しました。
栄光無き天才、ライアン・フィッツパトリックの記録
プレーオフに1度も出場していないQBにも関わらず、17年間計9チームで毎年先発に就くという異常な選手だったので、その記録もマネできないものばかりになっています。
※2022年6月3日時点の記録
【NFLレコード】
- 異なる7チーム(ドルフィンズ、バッカニアーズ、ジェッツ、ビルズ、テキサンズ、ベンガルズ、タイタンズ)で勝利経験がある初のQB
- 1シーズン中1つのスタジアムで2TDパスを決めた回数=9回(2015)
- アイビーリーグ出身で最もTDパスを決めた=190回
- 異なる6チーム(ラムズ、ビルズ、テキサンズ、ジェッツ、バッカニアーズ、ドルフィンズ)で先発QBとして1対戦相手(ジャクソンビルジャガーズ)と試合した初のQB
- 異なる6チームで同じ対戦相手(ジャクソンビルジャガーズ)に勝利した初のQB
- 異なる5チーム(ビルズ、タイタンズ、テキサンズ、ジェッツ、バッカニアーズ)で1試合で4回のタッチダウンパスを投げた初のQB
- シーズン開幕2試合で50yd以上のTDパスを決めた回数=4回(ジョー・ネイマスとタイ)
- 開幕2試合連続で400yd+4TDを決める(2018)
- 開幕2試合連続で400yd以上のパス獲得ヤードと4回のタッチダウン(2018)
- 開幕3試合連続で400ydド以上のパス獲得ヤード(2018)
- 3試合連続で400ヤード以上のパス獲得ヤード(2018)
- 1シーズン内で400yd以上のパスを獲得した回数=4回(ダン・マリーノ、ペイトン・マイングとタイ)
【ビルズのフランチャイズレコード】
- 最長のタッチダウンパス:98ヤード(2009年11月22日:ジャガーズ戦)
【テキサンズのフランチャイズレコード】
- 1試合の最多TDパス:6回(2014年11月30日:タイタンズ戦)
【ジェッツのフランチャイズレコード】
- 1シーズンの最多TD記録:31回(2015)
【バッカニアーズのフランチャイズレコード】
- 3試合連続でパス400yd以上を獲得(2018)
- 1シーズンにパス400yd以上を獲得=4回(2018)
- 1シーズンに連続で140.0のレーティングを記録(2018)]
- 開幕3試合でのタッチダウンパス合計=11回(2018)
【その他】
- キャリア通算パス34,990yd獲得は、プレーオフに出場した事のないQB最多
→フラフラしたジャーニーマンに見えて、多くのNFL記録と複数のチームでフランチャイズ記録を打ち立てて爪痕をしっかり残しています。
特に2018年バッカニアーズ時代の開幕3週の爆発ぶりが凄いです。そりゃ、こうなりますよ↓(再掲)
我らがジェッツでも、英雄テスタバーディーを抜いてしまうシーズン最多TDパス回数記録を残しました。
プレーオフに1回も出ていないQBが残す記録とは考えられないです。
結局、「フィッツマジック」と「先発殺し」とは何だったのか?
フィッツパトリックの2大必殺技とも呼べる、1シーズンや数週間だけ爆発的にパフォーマンスが上がる「フィッツマジック」と、バックアップQBなのに先発QBの不振やトラブルで毎シーズン出場機会が訪れる「先発殺し」。
正直なところ、これらは奇跡のワザなのか、はたまたハーバード大出身の頭脳が生み出した高度なトリックなのか、一般人の頭脳では考察のしようがありません。
あと彼の性格に関してもよく分らず、頭脳明晰の寡黙な男だと思っていたら、スクランブル時はスライディングしないどころか体当たりでD#に対抗する勇敢かつ攻撃的な一面を持っています。
服装も地味なネルシャツとチノパンで「木こりかよ」と思っていたら、バッカニアーズ時代に突然ハデになったり、陰キャと思っていたらドルフィンズ時代には明るくなってサイドラインで話をしたり観客を煽ったり、最後のワシントンではSNSで意外なほど明るい表情を見せました。
近年ではプレーオフのビルズvsチーフスにて、古巣ビルズの応援にかけつけて極寒の中で半裸になるクレイジーな一面も見せます。
Ryan Fitzpatrick is the boss of Bills Mafia 🤣pic.twitter.com/Gv0C2D9Hz0
— Pickswise (@Pickswise) January 17, 2022
このブログでは”ジョー・フラッコ”のパフォーマンスにバラつきがあることを「2重人格」ネタとして取り上げてきましたが、実はフィッツパトリックこそ複数の人格がいるのではないかと思ってしまいます。勝手な妄想ですが。
ジェッツ時代とドルフィンズ時代にプレーオフ出場目前まで進むもチャンスを逃し、結局は1度もプレーオフに出場する事はなかった不遇なQBでした。
しかし、ファンから彼へのリスペクトはドラフト2022での一幕で現れます。
Need the FitzPACKtrick to assemble ASAP.pic.twitter.com/L1Jo9ia3O3
— NFL (@NFL) June 2, 2022
どのチームとも契約できていないフィッツパトリックを盛り上げるべく、かつて所属したチームのジャージを着たファンが集まったわけです。
結果がすべてのNFLにおいて、彼に殿堂入りする資格があるか分かりませんが、ドラフト7巡という最下層のスタートから最後にはファンの記憶に残るQBとなったのです。
ありがとう、ライアン・フィッツパトリック!
そしてお疲れさまでした!
(と、書いた後にブレイディみたいに復帰するパターンが怖いんだよねぇ)
ペイトリオッツ、スティーラーズ、パッカーズなどのいわゆるエリートチームは彼に手を出しませんでしたね、なんか感じるものがあったんでしょうか?
カウボーイズあたりは彼がプレーしててもおかしくなかった気がしますがオーナーがアイビーリーグ出身を毛嫌いしてるのかな?なんてね
potorinさん>
不動のフランチャイズQBがいるチームは、バックアップはどちらかというと後釜の育成枠なので獲得する必要が無かったのでは無いでしょうか。
もしくは、早々にフィッツパトリックの特性に気付いていたのかもしれません。
プロレススーパースター列伝、レギュラー化して欲しい。
私は泣いた
ただ泣いた…